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LTOからデータを復旧できない?企業が今すぐ見直すべきバックアップ戦略とは

2025 April 18By Mayuko Yoshitome

データは現代企業の生命線です。過去10年を振り返るだけでも、企業が扱うデータ量は指数関数的に増加し続け、その勢いは今後も衰える気配がありません。こうした状況の中、多くの企業がバックアップやアーカイブのためにLTO(Linear Tape-Open)テープを利用してきました。

この記事ではLTOテープによるバックアップ・復旧の実態について紹介するとともに、多くの企業が直面しているデータ保護の課題と、クラウドストレージなどの代替ソリューションがもたらす可能性について説明します。

LTOは本当に安全なバックアップ先か?

LTOテープは長らく「コスト効率が良く、長期保存に適している」と言われてきました。しかし、デジタルトランスフォーメーションが加速する現代のビジネス環境において、テープベースのバックアップ戦略には見過ごせない課題が浮き彫りになっています。

その最も重大な問題の一つが「データ復旧の不確実性」です。バックアップの本質的な目的は、必要なときに確実にデータを取り戻せることにあります。しかし現実には、LTOテープからのデータ復旧は想像以上に複雑で、時に不可能なケースすら存在するのです。

たとえばIT部門の担当者であれば、こんな経験はないでしょうか?

  • 緊急時にテープを取り出したものの、読み取りエラーで復旧できない

  • 古いバージョンのLTOテープを読み込むため、中古の旧型ドライブを探し回った

  • 定期的なテープのチェックや管理のために、貴重な人的リソースを割いている

実際、テープベースのバックアップからの復旧時に問題が発生するケースは珍しくありませんが、こうした失敗は単なる不便さにとどまらず、ビジネス継続性を脅かす重大なリスク要因となっています。

よくあるLTOの復旧トラブルとその原因

LTOテープによるバックアップは多くの企業で採用されていますが、いざデータを復旧しようとした際に様々なトラブルに見舞われることがあります。これらの問題は単なる一時的な不具合ではなく、多くが構造的な課題に起因するものです。

保管環境に起因するトラブル

LTOテープは本質的に物理メディアであり、適切な環境で保管されないと経年劣化が避けられません。具体的には、以下のような問題が起こりがちです。

  • 温湿度による劣化

テープメディアを使用・保存する際は温度や湿度に注意が必要です。たとえばLTO-9の場合、温度は15〜25℃、相対湿度は20〜50%が推奨環境で、この条件を外れるとテープの伸縮や素材の劣化が促進され、カビが発生することもあります。

  • 物理的損傷

保管中の衝撃や圧力による変形、落下によるケースの破損など、物理的な損傷もデータ喪失の原因となります。特に、段ボール箱に雑然と詰め込まれたテープは物理的ストレスにさらされやすく、破損のリスクが高くなってしまいます。

  • 磁気干渉

強い磁場の近くに保管された場合、テープに記録されたデータが破損する恐れがあります。オフィス環境では気づかないうちに磁気を発する機器の近くにテープが置かれていることもあり、長期保存における潜在的なリスク要因となっています。

現実のオフィス環境や倉庫で、常に理想的な保管状態を維持することは容易ではありません。多くの企業にとって、こうした問題は長期保存時のリスク要因となるでしょう。

LTOの世代に起因するトラブル

テクノロジーの急速な進化はIT業界の宿命ですが、LTOテープにおいては特にこの問題が顕著です。

  • 世代間の互換性制限

LTOは約3年ごとに新世代が登場しますが、互換性があるのは基本的に1世代前(LTO-7以前は2世代前)までです。たとえばLTO-9ドライブはLTO-8テープを読み込めますが、LTO-7以前の世代は読み込めません。多くの企業が10年以上のデータ保持を必要とする現状では、この限定的な互換性は重大な問題です。

  • 旧型ドライブの入手困難

古い世代のテープを読み込むには対応するドライブが必要ですが、製造中止となった世代のドライブの入手は非常に困難です。たとえ中古市場で見つかったとしても、保証なしの状態であったり、高額な費用が発生したりします。

  • ドライバーやソフトウェアの互換性

古いドライブは新しいOSやサーバーとの互換性が保証されないため、接続しても認識されなかったり、バックアップソフトウェアが対応していなかったりする問題が発生します。

LTOの仕様上、世代を超えたデータアクセスには制限があります。これは長期アーカイブを目的とする企業にとって重大な検討事項となるでしょう。

LTOの運用・データ復旧にかかるコスト

LTOテープを使用したバックアップシステムは、初期費用や媒体コストが比較的安価であることから多くの企業に採用されてきました。しかし、システム全体の運用や実際のデータ復旧までを考慮すると想定以上のコストが発生することがあります。

  • ハードウェアの定期的更新

LTO技術は約3年ごとに新世代が登場します。長期的な運用を続けるためには、テープドライブやライブラリ装置の定期的な更新が必要となり、その度に大きな設備投資が発生します。

  • 保守・サポート契約

テープライブラリやドライブには年間保守契約が必要です。特にミッションクリティカルな環境では、24時間365日のサポート契約が必要となり、初期投資に加えて毎年の継続的なコストが発生します。

  • メディア管理の物理的コスト

テープカートリッジの適切な保管には、温度・湿度を管理した専用の保管環境が望ましいとされています。これらの環境維持コスト、保管棚や保管庫の費用も運用コストの一部です。

  • 管理ソフトウェアのライセンスとアップデート

テープライブラリを効率的に管理するためのソフトウェアライセンス費用やアップデート費用も継続的に発生します。

  • 世代交代時のデータ移行コスト

新しい世代のテープシステムへの移行時には、古いテープからデータを移行する作業が発生します。特に大量のデータを扱う企業では、この移行作業に数ヶ月から1年以上の期間と相応の人的リソースが必要となることもあります。

  • 互換性問題の解決コスト

古いバージョンのバックアップソフトウェアで作成されたテープは、新しいシステムでの読み取りに互換性の問題が生じることがあります。これを解決するための専門的なサポートやツールには追加コストがかかります。

  • メディア障害時の専門復旧サービス

テープメディアに物理的な損傷や劣化が生じている場合、専門のデータ復旧サービスに依頼する必要があります。これらのサービスは高額な費用が発生し、テープの状態や復旧の難易度によっては数十万円から数百万円のコストとなる場合もあります。

このように、表面上は初期費用やメディア単価が安価に見えるLTOも、長期的な運用や実際のデータ復旧までを含めたTCOでは膨大なコストがかかることが少なくありません。効果的なデータ保護戦略を立てる際には、これらの隠れたコスト要素も含めて比較検討することが重要です。

クラウドストレージという選択肢

LTOテープに代わる選択肢として、いま注目を集めているのがクラウドストレージです。クラウドストレージは単なる保存場所の変更ではなく、データ管理の考え方自体を根本から変える可能性を持っています。

可用性の高さ

クラウドストレージの最大の特徴の一つは、データ復旧の概念そのものを変革する可用性の高さです。

  • 冗長性の自動化

主要なクラウドストレージサービスは、データを複数のサーバーや地理的に分散したデータセンターに自動的に複製して保存します。これにより特定の場所でハードウェア障害が発生しても、即座に別のコピーにアクセスが可能です。

  • 自己修復機能

クラウドストレージシステムは継続的にデータの整合性をチェックし、問題が検出されると自動的に修復プロセスを実行します。このプロセスはバックグラウンドで行われるため、ユーザーが意識する必要はありません。

  • オンラインアクセス

クラウドに保存されたデータは、オンライン経由で常時アクセス可能です。テープのように物理的なメディアを取り出して装置に装填する必要がなく、必要なデータに即座にアクセスできます。これにより、実質的な「復旧時間」は大幅に短縮されます。

  • ダウンタイムの最小化

高可用性を前提に設計されたクラウドストレージは、計画的なメンテナンスでも中断なくサービスを提供できるよう設計されています。これにより、データへのアクセス可能性が大幅に向上します。

災害・人為的ミスへの強さ

クラウドストレージは、物理的な脅威や人為的ミスに対しても高い安全性を持っています。

  • 分散保存

主要なクラウドストレージサービスには、データを複数の地理的に離れたリージョンやアベイラビリティーゾーンに保存する機能があります。これにより、自然災害や地域的な障害が発生しても、データ喪失のリスクを最小限に抑えることができます。

  • バージョン管理とデータ保護

多くのクラウドストレージサービスには、ファイルの変更履歴を保持するバージョン管理機能や、誤削除からデータを保護する機能が標準で実装されています。これにより、人為的ミスによるデータ損失リスクが軽減されます。

  • アクセス制御

クラウドストレージでは、ユーザーごと、データごとに詳細なアクセス権限を設定できます。また、アクセスログも自動的に記録されるため、セキュリティ監査や不正アクセスの検出が容易になります。

  • 暗号化

クラウドストレージのほとんどには、転送中および保存中のデータを暗号化する機能が標準で提供されており、データの機密性を確保できます。

継続利用の手軽さ

クラウドストレージを利用することで、テクノロジーの世代交代にともなう複雑な作業からも解放されます。

  • インフラの自動更新

クラウドプロバイダーは定期的にストレージハードウェアを更新していますが、この作業はユーザーに意識させることなく行われます。ユーザーはストレージの世代やハードウェアの詳細を気にする必要がありません。

  • 契約更新のみで継続利用

クラウドストレージは、ハードウェアやソフトウェアの大規模アップグレードではなく、単純な契約更新のみでサービスを継続できます。従来のテープライブラリのリプレイス時に発生していた複雑な検討や導入作業が不要です。

  • データ形式の互換性維持

クラウドストレージでは、保存データの形式やアクセス方法の互換性が長期にわたって維持されます。これにより、古いデータへのアクセスが将来的に困難になるという問題が軽減されます。

まとめ

企業のデータ保護戦略において、LTOテープは長年重要な役割を果たしてきましたが、物理的劣化、世代互換性の問題、復旧の複雑さなど多くの課題があります。これらの課題を解決するのがクラウドストレージへの移行です。

Wasabiクラウドストレージは、高可用性アーキテクチャによる迅速なアクセス、自動化された管理、地理的分散によるデータ保護を実現し、従来のテープ運用における多くの課題を解消します。既存のテープ環境の見直しを検討される際は、ぜひWasabiにご相談ください。

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